君のせいで本気出す 03

「先輩、レトロクソゲーやりましょ!! ファミコンです!!」
「いつもながらクソって言われてくるゲーム勧めてくるの、あまりに外道では?」
「そう言いながら、しっかりプレイする体勢を整えてくれる先輩大好き」

 今日も今日とて放課後、私は実家から送られてきたソフトを手にイデア先輩の部屋へ突撃していた。
 あまりに通いすぎてイグニハイドはもはや顔パス。イデア先輩の部屋にも二十四時間いつでもお邪魔できる有様だ。そのご好意に甘えて私は暇さえあれば先輩と過ごしている。
 ファミコン本体(実家から持ってきて先輩に預かってもらってるのだが先輩の魔改造によりツイステワールドの言葉に自動翻訳機能が付いてたりする)の準備を整えて、私からゲームの箱を受け取った先輩が顔をしかめる。

「ってうわ、トーワチキのやつじゃん。クリアさせる気ないでしょ……」
「そう言いながら先輩、伯爵令嬢誘拐事件も、別会社ですけどミシシッピー殺人事件もクリアしてたじゃないですか」
「拙者が天才でよかったね」
「ヨッ異端の天才!」
「褒め方がクソ雑」

 他愛ない雑談をしている間にも先輩は丁寧に箱からソフトと説明書を取り出している。
 紙の説明書があるのはレトロゲーの良いところだよなあと思う。元々そこまでページ数がないこともあって、さくっと読み終えた先輩。過酷な戦いになるとわかっているからか、その目は据わっている。

「で、説明書のどこに間違いが?」
「説明書にはたぶんなかったはずですよ」
「……ゲーム中?」
「プロローグの説明でかなりやべえ間違いがありますね」
「またかトーワチキ!!」

 以前、同社のゲームをプレイしてもらった時、2コンは使いませんと書いておきながら実際は2コンがないとクリアできない仕様だった。というか2コン使いません!って書いてあるページの3ページ後に2コン使った操作が記載されてんだよな……。
 レトロゲーの説明書に間違いは比較的付きものだけども、それにしたって酷い。イデア先輩がキレるのも無理はないと思う。

「今回プレイしてもらうエルナークの財宝は伯爵令嬢誘拐事件と同じく、ヒントほぼなしクソムズ謎解き、異常に高いアクション難易度、最終面での詰み要素とまあ理不尽ゲーですね!」
「聞けば聞くほどプレイしたくなくなるんだが」
「一応、バグゲーと違ってクリアできるので……まあ発売されてから十三年間クリアされなかったんですけど……」
「これもきっとお父さんから引き継いだゲームなんだろうけどさ。君のお父さん、なんでこうクソゲーばっか買ってるの?」
「父とクソゲーは惹かれ合う運命にあるんでしょう、知らんけど」
「そんな運命の糸はぶった切れ!」

 イデア先輩のツッコミがごもっともである。次はちゃんと名作と駄菓子を持ってくるので許してほしい。

「当然ながら自分と父はクリアできなかったので仇取ってください。イデアくんならやりとげてくれるはず……!って父さん、めちゃくちゃ期待してたので」
「くっ、拙者がゲーム得意なばっかりに……拙者には何の旨みもないんだが??」
「異世界のゲームができるって貴重な体験を提供しているので何とぞ。自分が可愛い女の子ならお礼にキッスの一つや二つもかましてたんですけどね〜〜」

 めちゃくちゃクレームを入れてくるが、先輩の事だからいつも通りなんだかんだクリアしてくれるのだろう。ゲーマーとしての意地半分、懐に入れた相手には甘々なので私のおねだり半分のおかげで。
 だって今も口では抵抗しているけど、私の父が先輩のスーパープレイを見れるようにゲーム画面の録画の用意も始めてくれてるし。
 本来ならば先輩のようにゲームの腕に自信がある人に口出しするのはよくないだろう。だがレトロクソゲーにその常識は通用しない。知ってなきゃゲームが進まないor詰み要素が、ノーヒントでゴロゴロ転がっている。なので今回も最低限とはいえ、私の方で攻略情報を添えさせてもらうとしよう。

〜プレイシーンはダイジェストでお送りします〜

「自機の速度おっっっっそ! しかもナナメ移動できないじゃん!!」
「アクションRPGとしては致命的なんですが、そんなの序の口なんですよねえ……」
「敵は滑らかにナナメ移動も攻撃もできてるのに……! ってか偏差射撃まで使いこなしてるのズルくない?!」
「偏差射撃ってなんですか?」
「プレイキャラの進行方向の少し先に攻撃飛ばす技術」
「おk把握しました、うーん殺意が高い!」

「……これ、もしかして無限ループしてる?」
「おっ、さすがイデア先輩! こんな早く気付くとは」
「一面からこの仕様は鬼だろ!! 道は必ず続いてるってヒントなんだったんだよ……いや、待てよ。アレって……よし」
「先輩よくわかりましたね。この絶壁にタックルし続けるって、ほぼノーヒントなのに」
「どんだけ君にクソゲーやらされてきたとお思いで? もう慣れてきましたわ……」
「有名どころは大体網羅しましたね」
「本当に心から感謝してよね!!!!!」
「キャーイデア先輩素敵、抱いてー」
「棒読み乙、後でね」

「あーなんかボスっぽいエフェクト来たね、何回コンテいるかな……ってオイ!! ボス一瞬で死んだんだけど?!」
「クソゲーあるあるじゃないですか? ボス瞬殺」
「これで第1ステージクリアなんだろうけど、素直に喜べない……」

「うっわ、急にステージだだっ広くなった」
「クソゲーあるある、無駄に広いマップ」
「……このゲームってスピードアップするようなアイテムは」
「イデア先輩、これクソゲーですよ?」
「雄弁すぎる答えをありがとう、クソが」

「さっきよりはまともなヒントだけどさあ。そもそもヒントを拾うのがキッツイんだが???」
「ほぼヒントが機能してない前作に比べたら改善されてるって思いましょ」
「あれと比べたら全部神ゲーなんすわ、この作品は紛れもなくクソだけども」

「もはや解かせる気のない謎解きをこの激ムズアクションの中でやらせるのなんなの……?」
「とか言いつつ、初見でまだコンティニュー1回もしてないのは凄すぎますよ。画面外から飛んでくる敵の攻撃速度めちゃくちゃ早いのに」
「心折設計、本当に止めてほしい」
「この時代は簡単にクリアされたら負けみたいな文化あったので……」

 3面まで来ても相変わらず瞬殺されるボスを倒したところで、先輩がゲームをポーズ画面にする。
 どうやらちょっと休憩を入れるようだ。取ってと指示された駄菓子を手渡すと、バリバリ音を立てて先輩はそれを噛み砕いている。無心で糖分補給する先輩の目は完全に死んでいた。さすがにちょっぴり罪悪感。
 甘い物を食べて多少疲れが取れたのか、少しばかり先輩の目に光が戻る。そういえば、と思い出したように先輩が口を開いた。

「新刊も重版決まったんだってね。おめでと」
「ありがとうございます! おかげさまで順調に蓄えできてきましたよ〜!」

 ——どうして戻ってきたの
 元の世界の遊び道具を背負って、数日あけつつもいつも通り先輩の元へやって来た私に彼は低い声でそう問いただした。先輩の目元には泣きはらした跡が見えたけれども、見なかった事にして何でもないように私は「そんな冷たいこと言わないでくださいよ」と。
 一生のお別れを決意していたらしい先輩には酷なことをしたと思う。でも家族に会いたかったけれども、それ以上に友人達やイデア先輩と離れたくなかった。グリムと一緒に卒業したかった。
 だから幸いにも元の世界で普通に生きていくことが難しいことを理由に、私はツイステッドワンダーランドに永住することを選んだのだ。

 私の父は売れっ子小説家で。なので、その娘である私が行方不明になった時、元の世界でそれはそれは話題になったそうだ。
 幸い私の両親は異世界トリップしていたことを理解してくれた(色々証明する為の準備とかしてたけど拍子抜けするぐらいあっさり信じてくれた)が、世間様はそうはいかない。
 とりあえずいつでも行き来できるので、行方不明の間の記憶がないという事にして、謎の神隠しで曖昧に済ませたのだが。
 もーう、どいつもこいつもないことないこと捏造しやがる。家出とかは可愛い方。一番酷いのなんだったかな、誘拐されて海外で性奴隷として過ごしていた〜とかなんとか。D級映画の見過ぎじゃボケ。
 ともかく名前やら顔、そしてしばらく行方不明者だったことが世間に知られており、普通に過ごしてるだけで好奇の目を向けられ。そして今から高校に通い始めても出席日数的に留年確定。
 だから両親のすすめ(今は海外留学に行ったことにして誤魔化してくれている)もあり、ツイステッドワンダーランドで生きていくことに決めたのだ。

 となるとこっちでの生活基盤を整えなければならないのだが、実のところアテはあった。
 イデア先輩に教えてもらった投稿サイトに置いてた小説に書籍化の話が来ていたのだ。いくつもの出版社からかなり熱烈にアプローチされていたものの、戸籍ないしなーと断っていたが、これを機に乗ることにした。
 ただ、あの望まれようならば悪いようにはならないと思いたいが、商売に関してはズブの素人である。
 後ろ盾のない若造だからと下に見られる可能性は非常に高い。なので、イデア先輩とアズール先輩とジャミル先輩と学園長を巻き込んで、華々しく小説家デビューを果たしたのだ。
 ちなみに元々知ってたイデア先輩だけでなく、何故他の三人が協力してくれたのか。単純に彼らが私の小説の大ファンだったからである。アズール先輩はメールでめっちゃ長い感想と共に書籍化打診してきたし、ジャミル先輩と学園長については本人から雑談の時に聞いた。だから私がその作者でーす!って明かした時、三人とも限界オタクになってて面白かったなあ。
 話が脱線したけれども、そんなこんなで書籍化した結果、訳がわからんぐらい売れた。
 この世界にとっては私の作品は良くも悪くも新鮮だったらしい。「えぐい!!でも読んじゃう!!」「作者は地獄出身」「読む麻薬」とかなんとか。
 これまで三冊出したが、どれも大ヒット。おかげで現時点でも慎ましく暮らせば、なんとか生涯食べていけそうなぐらいには印税が入ってきている。

「父さんは自室じゃないと書けないタイプなんですけど、自分は環境変わっても書けるタイプで本当に良かったです」
「……君はどこでも執筆に支障ないの?」
「そうですね。自分、文章力以外は母さん似なので……どこでも書けるし、枕変わっても全然寝れますね。あとイデア先輩のおかげで、いつでも父さんにメールで相談できますし」
「ふーん、そうなんだ」

 そろそろゲームを再開する気になったらしい。深く深呼吸してから先輩がコントローラーをかまえる。
 画面の光でぼんやり浮かぶ均整のとれた先輩の顔からは非現実的な美しさを感じた。でもこれクソゲーやってる顔なんだよな……。うーんイケメンの無駄遣い。

「なんか4面進んだら急にステージ狭くなってるし」
「たぶん3面ギミックこりまくってたから力尽きたんでしょうね」
「バランスェ……」

「えっとヒントは何々……うーん光属性だとワープできるんだ、でも今から変えるの面倒くさいな」
「変えなくていいですよ。近道って書いてますけど、全然近道じゃないんで」
「またそうやってクソゲーすぐ嘘つく!!」

「……この階段、絶対怪しい。傍で意味深に生えてる木の方に行ってと……やっぱり」
「大体の人がそこでめちゃくちゃ詰まるのによくわかりましたね」
「明らかに誘導してくる階段は疑えって、いなずまのけんで学んだんすわ」
「ちなみにこのゲーム、それを先輩に教えたドラクエ2と同じ年に生まれました」
「ウッソだろ、あの名作と同年生まれでこの野暮ったいグラフィックなの???」

「さっき拾ったダークリング強さエグくない?!」
「おかげでボス瞬殺でしたね」
「それはあんまりリング関係なくない?」

「これって敵、反時計回りに出てきてるっぽい?」
「多少ランダム要素混ざってきますが、大体そうみたいですね」
「じゃあ次は左に行けば、敵が攻撃する間もなく消える。これならラクショ……ア゛ッ」
「フラグ回収おめでとうございます、見事な死にっぷりでしたね」

「これもしかして属性ぴったり中間だと自キャラクソ雑魚になる代わり、光も闇もギミック通れる感じ?」
「えっ、よくわかりましたね」
「君が闇属性じゃないと通れない扉の向こうにボスがいるってヒントくれたから考えたんだけどさ」
「はい」
「説明書に『闇属性でゲーム終わらせられると思ってんの?』って感じのこと書いてたし、プロローグで『闇の勢力滅ぼせ』って言ってたから、たぶんボスは完全に光属性じゃないと倒せないでしょ。あとライトリングもいるかな」
「大体その通りですね」
「あ、大体なんだ。後で詳細プリーズ。で、たぶん闇属性としてボス前の扉通ると、ボス前の光寄りアイテム使ったとしても完全に光属性になれずボスにダメージ与えられなくて詰むってところじゃない? じゃあ中間だったら最後の最後でぴったり足りるかなって」
「本当になんでわかるんですか?!」
「クリアはできるけどクリアさせたくないんでしょ? その上で拙者が作るならそうする」
「制作者はNRC生だった……?」

「ということで、なんかいかにもボスが出そうな場面に来たね。嫌な予感しかしない」
「まさか実際のプレイでこの画面を見れる日が来るとは思いませんでした」
「ここにきてまさかの人型ボス、これもしかして最初に助けを求めにきた……って、もう死んだ……」
「安定の瞬殺でしたね。正気に戻すため倒しただけなので一応殺してないみたいですよ。あとタイトル回収です、やったね!」
「もっと達成感クレメンス……って、まだエンディング流れないってことは黒幕いるよね、はあぁ」
「うわー! 先輩の目が死んだ! 頑張れ頑張れ♡」

「ラスボス手前で一面と同じギミックが出るのって結構ワクワクするよね」
「今の先輩の目は濁ってますけどね」
「このゲームに関しては例外」
「ここの先にある扉越えたら今度こそ終わりなんで……!」

「わかってた、うん。わかってたよ、どうせラスボスもクソ雑魚だって」
「簡単なメッセージとザ・エンドで終わっちゃいましたね」
「泣きそう」
「泣かないで」
「100000000%君のせいなんだが????? もう二度とやるか、こんなクソゲー!!!!!」

 なおこの台詞を聞くのはこれが初めてじゃなかったりする。なにせ毎回こうやってキレながらもなんだかんだクリアしてくれるからだ。
 録画機能を切って「おつかれさまでした」と先輩を労る。それに恨めしげな目で先輩は私を見つめて。そんないつも通りの光景が今日は違った。

「早く報酬くれない?」
「えっと報酬……わかりました、ちょっくら購買で駄菓子買ってきますね」
「違うって。あーもういい、勝手に貰うから」

 立ち上がろうとした私を引き留めて、先輩は私の顎を持ち上げる。何をと訊ねようとした声はちゅむとくっついた先輩の唇に飲み込まれた。えっ。
 突然のことに硬直する私の唇を容赦なく先輩は食む。なんとか腕を伸ばして押しのけようとしてもびくともしなくて、その間も先輩は私の口をはみはみと甘噛みしたまま。
 ようやく離れて必死に呼吸をする私を先輩はじっと無言で見つめている。どうしてこんなことになってるの。わからない。なんで、と思ったままの言葉が口を出た。

「君が言ったんだろ、自分が可愛い女の子ならキスするって」
「へ……?」
「拙者とっくに知ってるんすわ、君が女の子だって」

 先輩曰く、どうも私は先輩へ家族のことで弱音を吐いた時に「自分は一人娘だから両親はかなり心配してる」と言っていたらしい。
 まだ混乱しているけれども、女だとバレていたのはひとまずわかった。その上でまっさきに浮かんだのは。

「じゃあ先輩、私が女だってわかってたのに交尾前のタカアシガニみたいな体勢取ってたんですか?!」
「女の子なのにホイホイ男の部屋へ押しかけてくる君が言える立場か?!」

 それを言われるとぐうの音も出ない。うぐぐと言葉に詰まる私を煽るように勝ち誇った表情をする先輩。殴りたい、この笑顔。
 そして嘲笑から一転、スンと真顔になる先輩。うわぁ!いきなり落ち着くな! こんな時に改めてなんだけど、間近で見て思う。やっぱりえげつないぐらい整った顔立ちしてるなこの人……って、あれ、間近?
 気付いた時には既に遅く、私は先輩によってその場へと組み敷かれてた。もやしなんて言われてるけど、先輩にとって私のような小娘一人押さえ込むことなんて造作ないのだと、力強く手首を掴む手が教え込んでくる。

「ちょ、ちょ、ちょっ、何するんですか?!」
「抱いてって言ってたでしょ」
「そんなこと言って……言ったな。えーっと、だっこ! だっこの方の解釈でお願いします!! 等身大抱き枕!!」
「やだよ」
「ぴえん!!!!!!」

 思いっきりふざけて雰囲気をぶち壊そうとしたが、びくともしない。そうこうしているうちにまたキスされる。
 なんで萎えないんだ。自分で言うのもなんだけども、こんなうるさい女相手によくそんな気になれるな。しかもめっちゃしつこく唇吸ってくるじゃん。さっきのがファーストキスなのであいにく比較対象はないが、たぶんこれかなりねちっこい気がする。
 どうして私にこんなことするの。私、違うのに。先輩お気に入りのヒロインのどの子にも全然似てないし、他の人と違って友達でいられるのも不思議なぐらい何も持ってないのに。

「せっかく人が逃がしてあげたのに『だって先輩ともっと遊びたいから』なんて戻ってきてさ。それでも我慢しようと思ってたのに。例え地底に引きずり込んだって輝いていられるって自ら証明して台無しにするんだから、君って本当にどうしようもない奴だよ」

 僕に諦めるのを諦めさせたくせに、何諦めようとしてるの。あの時以上に苛立ちを込めた声で先輩が問う。それに答えようとする私を遮るように口付けてきた。
 黙ってろと言わんばかりのそれの中に感じ取る。私が何を考えていたって、何を持っていようがいまいが、先輩にとってはどうでもいい……どうにでもするのだと。
 いつもは青い先輩の髪が今は薄桃色に燃え上がっている。それはまるで春の訪れを告げる花のようだった。

「わかったなら、ほら、責任取ってよ。異端の天才の頭の中、現在進行形でお花畑に仕立て上げたんだから」

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