攻略法見つけたり

「参ったなあ……」
「どうしたの?」

 視線は画面を向いたまま、手はコントローラーをがちゃがちゃしたまま、私の弱音にイデア先輩は反応する。
 この通りゲームに熱中しているようだったから、聞こえていないと思ってたのに。自分で考えていたよりも大きな独り言になってしまっていたのだろうか。
 先輩の部屋に顔パス(網膜認証)で入れるようになってからというもの、一応事前に連絡はしているものの、わりと気ままにお邪魔している。入った時、大抵先輩は何かの作業中だから声はかけず、落ち着くまでこっそり邪魔にならないところで座って待つようにしていて。
 今日もそんな感じだったから、私の存在に気付いていたことがちょっと意外だった。
 私のぼやきは丸っきり自業自得である。だけど答えなければ、先輩はそれが気になって集中できないかもしれない。

「いや、新発売のジュース買ったら思ったより味が独特でキツいなあと」
「魚臭いとか?」
「さすがにそこまでチャレンジャーじゃないです。ラムレーズンみたいな感じですね」
「ふーん、貸して」

 画面に大きく『Pause』の文字が表示され、先輩が振り向く。
 私の手からペットボトルを受け取って「色ヤバすぎでは?」と呟く先輩。発言に対して声は随分楽しそうだ。そういえば先輩こういうドギツイ色のお菓子好きだったな。
 プシュと蓋が捻られて炭酸が抜ける音が響く。ペットボトルが傾いて、先輩の白い喉仏がごくごくと動いていた。その些細な仕草になんだかドキドキしてしまう、どうしよう目が離せない。
 そうしているうちによっぽど喉が渇いていたのか。炭酸飲料にもかかわらず、先輩は軽々と残りを全て飲み干してしまった。

「味は確かにクセがあるね。でも炭酸がある分、失敗した粉ジュースより全然マシっすわ」
「あー……あれ、水多すぎると凄い事になりますもんね」
「おっ、氏も失敗したことある感じ?」
「お兄ちゃんが作ってくれたのがすごく美味しくて、だからいっぱい飲みたくて……」

 雑談を続けながら、先輩が再びコントローラーを手に取った。
 せっかく好きな人の部屋に遊びに来てるのに放置される。普通の女の子は嫌なんだろう、でも私はこの距離感が心地よかった。
 自分はゲームはヘタクソだし、というか機械系がてんでダメ。だからこそ先輩が次々と難しいステージを攻略していったり、彼の手で色んなものが作り上げられているのを見るのが楽しかった。それに、こっそり先輩の真剣な横顔を眺められるし。
 今度のボスも強そうだったな。そろそろ私もゲーム見学に戻ろうとしたその時、さっきのペットボトルが足に当たって倒れた。先輩が飲み干していたので、こぼれることはない。ただ飲み口に付いていた私のリップグロスが視界に入った。
 …………あれ、もしかしてこれって間接キスなのでは?
 友達間での回し飲みなんて普通のこと。何より先輩にとって私は妹分みたいなものだ。だから意識するのがおかしい、そうわかってるのに私は頬が熱くなるのを抑えられない。
 いけない、いけない。どうやってもドキドキしてしまう自分を叱咤して、気持ちを切り替えるべく先輩のプレイを見るために顔を上げる。

「ってすっごいボコボコにされてるーーッ?!」

 先輩の操作する主人公はコントローラーが壊れたとしか思えないような挙動不審な動きをしていて、ボスの攻撃を一方的に受け続けてる。
 私が驚いている間もライフを示すハートマークがガンガン減っていって。何事?!と先輩の顔を見て、私は息が止まった。
 コントローラーを持つ先輩の手はガタガタ震えてて、尋常じゃないくらい汗をかいていて、頬も髪も真っ赤になっている。モニターはゲームオーバーの文字が表示された黒い画面に切り替わった。
 真っ暗な液晶に反射する先輩の顔はものすごく混乱しているけど、嫌悪の表情じゃない。むしろ。

「……イデア先輩」

 時間経過で文字が消えた画面に近づいた私が映って、口の中にほのかな甘みが広がった。

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