薬指は間違えない
「まさか二人で行動できるなんてね」
「ああ! すごく嬉しいな!」
A班と合流して市場を見回った後、私達はまたショーの会場で合流するはずだった。
だがトレイン先生が「まだショーまで少し時間がある。監督生とスペード、二人で街を散策してきなさい」と提案してくれて。アズール先輩達の後押しもあり、私達は二人で花の街を歩いていた。
私とデュースの関係は学園公認である。どうやらツイステッドワンダーランドでは恋人同士を応援する傾向にあって、また既に1班とスター☆チームとの合流も終え、ある程度私が町中を見て把握しているから、こうしてデートの時間を用意してくれたのだろう。
シャンデリア破壊退学RTAのせいで、私もデュースも問題児組に入れられているが、花の街の治安の良さと、普段の態度(トラブルのきっかけになるのはグリムかエースがからかうのが殆どである)から放流してもまあイケると判断してくれたんだと思う。
そして何より引率の先生がトレイン先生というのが大きい。愛妻家故に恋人達の時間に理解があって、この街が先生にとって奥さんとの思い出の場所だから。私達にも二人の思い出を作ってほしいのだろう。
「はどこか行きたいところあるか?」
「そうだなー。デュースがアズール先輩に別れ際貰ってた鉛筆欲しいかも。使いやすそう」
「じゃあ、あっちだな」
元来た道を少し戻る。さっきは気付かなかったが、お店の端っこの方にそれを見つける。店員さんに話して試し書きさせてもらったが、確かに書きやすい。
そんなに高くないし何本か買っていこう。先程買ったお土産と一緒にジャックへ渡すのにもいいかもしれない。勉強家だけあってよく使うって言ってたし。
「そういえば皆へのお土産はもう買ったのか?」
「うん。学園長以外にはチーズフィナンシェ用意してあるよ」
「学園長の分はまだなのか?」
「イチゴジャム買ったから大丈夫」
買い物を終え、とりあえず町並みを楽しもうと歩き出す。エースや学園長にお土産を催促されていたからだろう、デュースが訊ねてきた。それに答えてみればデュースが不思議そうな顔をする。
「……イチゴジャム? パンが特産品なのは聞いてるんだが、ジャムも特産品なのか?」
「どっちかと言うとブドウジャムの方が有名かな。特産品ブドウだから」
でも高いんだよね、ブドウだと。渡されたお小遣いじゃ余裕ないし。そう言って笑う私に密かな怒りを感じ取ったのか、デュースが「ああ……」と遠い目をしていた。
一応送りだしてくれたことには感謝しているのでお土産は買っていくが、お小遣いケチられたし最近人使いが荒いので素直に喜ばせたくないとトレイン先生に相談したところ、イチゴジャムを薦めてくれたのだ。
その時のトレイン先生の貴重な良い笑顔と言ったら。先生も色々と学園長に鬱憤が溜まってるんだろう。
「花の街、ブドウが有名なのか」
「うん。私はブドウジュース飲んだけど、すごく美味しかったよ」
「なら母さんへのお土産にブドウジャム買いたいな」
「了解、じゃあ確かこっちの方に」
「……あ、ちょっと待ってくれ」
ロロ先輩に教えてもらっていた店への道取りを行く。途中デュースが何か気になるものがあったらしい。
その店の前は多くのお客さんが集っていて、邪魔になりそうだったから少し外れたところで待つ。小さな袋をマントの中にしまいながらデュースが戻ってくる。
目当てのジャムを見つけた後はこの街でしか見られない花を堪能してみたり、デュースのオススメでクロワッサンに齧り付いたり、地域山羊に翻弄されたりして。
「たくさん歩いたね」
「だな」
充分遊び尽くした私達は近くの地下水路で休憩していた。ぼーっと二人で川の流れを見つめる。そんな何もない時間すらデュースとならば心地良かった。
トレイン先生が奥さんと思い出の場所と言った気持ちがよくわかる。あの華やかな街の思い出も、静かに二人きりで過ごせるこの時間も、どっちも素敵だ。
「そろそろ時間だし、待ち合わせ場所に戻ろうか」
「そうだな。えっとその前にこれを受け取ってくれないか」
はにかむデュースに渡されたのはさっきのお店でデュースが買っていた小さな袋だった。彼に言われるまま、中を確認すれば可愛らしい花の指輪が入っていた。デザインにされていた花はさっき見物していた時に私が特に気に入ったもので。
ありがとう、嬉しいとこぼす私の左手をデュースが取る。そして薬指にプレゼントしてくれた指輪をはめて……。
「によく似合うと思ったんだ……あ、あれ?」
くれようとしたのだが、サイズが合わなくて入らない。目に見えて『どうしよう……』と焦っているデュースに小指にはめるようお願いする。私の意見にデュースが目的地を変え、そして今度はぴったりはめることができた。
「すまん……もっとかっこよく決めるはずだったんだが」
「ふふ。じゃあ本番の時は一緒に買いに行こうね。私もデュースのサイズ間違えちゃうかもしれないし」
「え?」
フォローにしてはわかりにくいかもと思ったけど、ちゃんと伝わったらしい。満面の笑みでデュースが頷く。
いつか彼の指と私の指に同じ輝きが揃ったその時、今日のことを笑って語り合えますように。繋がれた彼の手を眺めながら、私は心からそう願うのだった。