愛は受け継がれるもの

「うーん……」
「どうかしたのか?」

 多忙な夫の貴重な休日。家族揃ってマイホームで過ごす、穏やかな昼下がりのこと。
 さっきまでパパに遊んでもらえて大はしゃぎしていた息子だが、今は夫に抱っこされながらスヤスヤと寝息を立てていた。
 夫にそっくりで将来有望な顔を眺めて、思わず唸る私にデュースは尋ねてくる。
 小首を傾げるその姿に、いつもながら顔が良いな……と考えつつも視線を息子へと向けた。今は見えない緑を覆うまつげの長さにやっぱり思う。

「いや、私の遺伝子どこに行ったんだろうと思っちゃって」

 三歳ともなれば分かりやすく個性が出てくるが、息子は外見も内面も見事にデュースなのだ。
 なんならプリンが好きでピーマンが嫌いだったり、マジホに興味津々だったり、運動が得意なところも丸っきり彼からの遺伝だろう。
 誤解の無いように言っておくが、決してデュースに似た事を嫌がってるわけじゃない。
 むしろ愛する夫と瓜二つなの最高だし、彼の美形ぶりをそっくりそのまま受け継いでくれて嬉しく思っている。
 以前お義母さんに見せていただいた幼少期の彼を堪能しているようで、ウキウキしているのも本当だ。
 ただデュースが細胞分裂したとか、魔法で若返ってしまったと言っても信じられそうなぐらい彼に生き写しで。
 他の人から見てもそれは同じらしく、行く先々で「パパにそっくりね」と言われてばかりだ。友人達も口を揃えて「ミニデュースじゃん……」と。
 デュースに似てくれて可愛いのに、でも私の血を全く感じられないのが、少しばかり寂しい。
 身勝手だなあと感じつつも、ちょっと落ち込んでしまう。

「そうか? 意外とに似ているところ、色々あるぞ?」

 思ってもない返答にきょとんとしてしまう私に、デュースも不思議そうな顔をしている。
 昼寝の時間が近かった為、いつ眠っても大丈夫なよう、二人は私達の部屋のベッドの上で遊んでいた。
 家事が終わって様子を見に来たところ、息子が寝息を立て始め、今の状況に至って。
 腕が疲れたのか。デュースが息子をマットレスへと下ろす。
 こちらのやり方にならって、いつもは一人で寝かせているからだろう。マットレスに横たわっても、息子が起きる様子はない。

はピアスとか付けないから、分からないかもしれないが……ほら、耳の形はそっくりだ」
「確かにデュースの耳とは違うね」
「あとは爪もと同じタイプだろ」
「ホントだ……」

 耳は鏡でしか見ないからともかく、爪はわかってもよさそうなのに。
 爪の伸びすぎは怪我の原因になる。
 だから伸び過ぎてないか、毎日意識していたのに全然気付いていなかった。
 授乳中にデュースに切ってもらっていた名残で、息子の爪切りは彼の担当だった。なので気付いたのだと、デュースは言葉を続ける。

「他にもあるんだが、やっぱり一番似てるのは笑い方だな。と同じ、僕が大好きな笑顔をしてるんだ」

 そう言いながら息子を見つめるデュースの目はひどく優しい。言葉だけでなく瞳でも彼は愛おしいと表している。
 父親の眼差しから一転、私へ向けられた視線は男の人のそれだ。緩められた唇も含めて。

に似てるところを見つける度、嬉しくなる。を、好きな人の事はよく見てるからこそ、つい目が行ってしまうんだろうな」

 わりと素面で言うには恥ずかしいと思うのだけれど、デュースはためらいなく口にする。おかげで言われている側の私が照れるばかりだ。
 さりげなくデュースが距離を詰める。おそらく雰囲気を察したのだろう。いつもは鈍感なのに、なんでこんな時ばかり反応が良いのか。

……」
「デュース、ストップ」

 近づけられた唇をぐいっと手で押しのける。そんな切なそうな顔してもダメ。
 いくら私がチョロいとはいえども、こればっかりは譲れない。

「子供にとって親が、その、営んでるのはトラウマになりかねないから、絶対に見せないようにしようって言ったよね」
「キスだけでもダメか……?」
「いってきますとおかえりのキス以外は子供の前でしないって約束したでしょ。元ハーツラビュル寮生兼、現お巡りさんがルールを破るのはどうかと思うよ」

 決まり事というのは一度破られると形骸化するものだ。だから心を鬼にして、キッパリと彼の要望を撥ねのける。
 だけど、鞭だけで終わらせるつもりもなかった。
 日々、魔法執行官としても、旦那さんとしても、パパとしても頑張ってくれている彼に、学生時代から変わらず、私は甘いので。

「だいたいキスしちゃったら、デュース止まれないよね。私も、そうなったら拒める自信ないから」

 図星なのだろう、ぐっと言葉に詰まったデュースを置いて、息子を抱きかかえる。
 決して大声は出していなかったとはいえ、この状況でぐっすり眠っていられる大物ぶりは私に似ているかもしれない。
 気付かなかっただけで、きっと他にもまだまだあるんだろう。
 この子は私達二人で授かった、愛の結晶なのだから。

「この子を部屋に連れて行って、モニター作動させたら戻ってくるよ。それから、ね」

 ベッドへ下りて早足で息子の部屋へと向かう。
 途中、デュースが何か叫んでいたようだが、おかまいなし。悩んだ末に彼はきっとピシッと姿勢を整えて待っていてくれるだろうから。
 煽った上に、久々な事もあり、大変なことになると思う。
 それに頬が熱くなることはあっても、嫌だなんて全く思えないどころか、期待している私がいる。

「……次は私が見つける番だったらいいなあ」

 なんてコウノトリにお願いしながら、私は息子の部屋のドアを開けたのだった。

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