イケメンでも越えられない壁がある

 もし私の胸がボリューミーであれば、ぱふん♡と可愛らしい効果音が聞こえたんだろうな。
 現在進行形で私の胸へ顔が埋まる……ほど無かったな、うん、というわけで改めよう。
 私の胸へ顔がめり込んでるデュース、その後頭部を眺めながら他人事のように考える。
 当事者であるデュース(硬直中)の表情は見えない。たぶん被害者に当たるであろう私は一周回って冷静になっていて。運悪く傍観者になったエースが一番慌ててるというか、青ざめている状況だった。
 男装していた時はガンガン下ネタトークを交わした仲だと言うのに、女であるとわかって申し訳なさそう通り越して腹を切るんじゃないかと思わせんばかりの顔をしていた、意外にも女性には紳士的なマブ達のことだ。
 混乱しているであろうデュースはともかく、エースからすれば現状は焦る要素しかないだろう。
 オンボロ寮はボロい。だから三人でジェスチャーを交えて会話していた時、たまたま剥がれた床にデュースが足を引っかけて、倒れた先に私がいた。で、私は火事場の馬鹿力というやつか、咄嗟に彼を受け止めた、それだけの話なんだけど。
 ただデュースの顔の落下地点が悪かっただけ。ラッキースケベって本当にあるんだなあ……。
 もちろんこれがわざとだなんて思ってない、デュースはそんな器用じゃないし、彼が好きな巨乳のお姉さんならともかく、貧乳同級生の乳を狙うメリットがないだろう。
 どうしたもんだ、と考えていたなら胸元に生ぬるい感触が生まれる。視線を落としたら夏服のシャツにじわりと赤色が滲んで……。

「うわああああ!!」

 私が声を張り上げた事で、エースも異常に気付いたらしく続けて叫ぶ。二人分の大音量の中、デュースが顔を勢いよく上げる。
 彼のすらっとした鼻の周辺が血で惨劇のようになっている状態で、デュースは「これはその、違うんだ!!」と訴えかけていた。

「んぐっ、デュース、鼻、く、んふふふふ、だいじょ、ふふふっ……」
「むしろ監督生の方が大丈夫か……?」

 そんなカオスから十数分後。
 さすがに鼻血が付いたままのシャツでいるのは嫌だったから着替えて、シャツはつけ置きして戻ってきたところ。
 両鼻にティッシュを詰めたデュースがいた。ティッシュの半分くらいは赤くなってるのでまだ止まっていないようだ。
 私がデュースの状態にツボっている横で、エースがねじねじとティッシュを尖らせてる。
 この様子からしてエースがデュースの鼻に突っ込んだんだろう。エースってたまにそういう大雑把なとこあるよね……。
 両穴用のつもりなのか、二つほど予備を作るとエースは私達に声をかける。

「オレ用事思い出したから先に寮帰るわ」
「うん、わかった。今日はありがとね」
「じゃあ僕も……」
「お前はやることあるでしょ」

 デュースにそう言い放つとエースは足早に部屋を出て行く。
 ああ言っていたけど、エースはたぶん気を遣って私達を二人きりにしてくれたんだと思う。
 ……エースは私がデュースを恋愛的な意味で好きだと知ってるから。
 ただしこんなロマンスもムードも死んでる空気で放置するのは止めてほしい。
 前言撤回、この雰囲気に耐えきれなくて逃げたな、あの野郎。
 でも気持ちは分かる。私だってエースなら離脱してるわ。色んな意味でデュースが直視できない。なんとか笑いを堪えようとして肩が震える。

「監督生、さっきはすまなかった」
「くっ、だ、大丈夫。だからデュースも気にしないで。私の胸なんて、ぶつけて鼻血出るレベルだしね」

 真剣に謝ってくれるデュース。だが両鼻ティッシュだ。シュールギャグみたいで耐えられない。
 さすがのイケメンでも鼻ティッシュには勝てなかったか……。
 そんな頭の悪いことをしみじみ考えていれば、突然デュースに両手を彼の掌で包み込まれるように握られる。
 じっとデュースが私を一心に見つめていた。

「ぶつけてない。監督生の、好きな子の胸に興奮したから出ちまっただけなんだ」
「……デュースはぼいんぼいんのお姉さんが好きなんじゃなかったっけ?」
「んぎゅッ、いや、確かにそうだったんだが、でも、それでも僕は監督生が好きなんだ」
「デュース、私相手でもそんな気持ちになるんだ。そっかー……」

 巨乳好きがこんな貧乳に興奮するとか、恋のパワー凄いな……。
 真剣な彼には悪いが、予想外すぎる展開にそんな風におちゃらけてないと正気でいられそうもなかった。恋愛経験ゼロの耐性のなさを舐めるなよ、(私が)死ぬぞ。
 甘い雰囲気に耐えられなくて俯いていれば、額にやわらかいものが触れる。顔を上げれば、デュースは二つの緑に欲を匂わしていた。

「好きな子の胸に触れて欲情しないわけないだろ。次は唇にするからな」

 興奮したからだろう、じわりと彼の白色に赤が更に広がる。
 最高にカッコイイ顔で、ちょっとばかり強引な台詞。まるで少女漫画のワンシーンみたいだ。

「鼻血止まってからにしようね」

 ——だが鼻ティッシュだ。
 吹き出すのを必死に耐える私は全身をぷるぷる震わせながら、そう説得するのだった。

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