力づくラブロマンス

 デュースが泊まりにくるので掃除を始めたところ、彼とエースが泊まる時に使うベッドの下からエロ本が出てきた。
 この寮に元々住んでいた人の物かと一瞬考えたけれど、この部屋を掃除するのは初めてじゃないし、そもそも本自体が新しい。
 奥付で発行日を見たが、ここ最近だったのでやはり二人のどちらかが持ち込んだのだろう。
 ……まあ、デュースだな。三秒ほどで結論が出た。
 私が女だとわかってから二人とも猥談やら、そういったシモい事から遠ざけるようになっている点と、二人の性格から推測する。エースなら、もしオンボロ寮に隠すとしても、もうちょっと上手に隠すだろう。

「わかりやすいなあ……」

 ぺらぺらとページをめくる。爆乳特集と表紙にデカデカ書いているだけあって、どこを見ても、ばいんばいんのお姉さんしかいねえ。
 さっきの私の台詞は隠し場所への単純さ、そして彼の女の子の好み、両方に向けて放っていたりする。
 特に折り癖が付いていたページに載っていたのはちょっぴり毛色が違うタイプだった。
 髪が長いお嬢様っぽい清純派女優で(アダルト女優に清純もクソもないと思うが)いかにもデュースが弱そうなタイプだ。
 NRCではちょっと珍しい、私と同じ髪色と目の色を持った彼女は極東の女優さんらしい。わりと幼い顔立ちはいかにも日本人っぽい、ただ胸の肉付きだけは明らかに違うのだが。
 男の子って本当にギャップのある巨乳好きだよなあ、兄弟のお宝を思い出して遠い目になる。自分が貧乳なので余計に黄昏れてしまった。
 男装していた時にエースから聞いたのだが、彼らの住まう寮ではこういった本は見つかると没収されてしまうのだとか。
 だからオンボロ寮に置かせて〜と頼まれたこともある。私は男兄弟がいる関係で男性のそういった事情を知っていた事もありOKしていた。
 まあ女バレした時に全部撤収されていったけど。別に宣言してくれてたら気にしないのになあ。
 なのにここにあるって事は改めて持ち込んだのだろう。
 やたら折り癖が付いている所からしてデュースはこの女優さんをよっぽど気に入っているのが見て取れる。
 だから絶対取り上げられない為にここへ隠したのだと思う。だとしても一言残しておいてほしかったな、わりとびっくりしたし。
 本当に隠された事は怒ってない。怒ってない……とは思うんだけど。でも何故か、色合い以外全く異なる本の中の女性になんだか、もやもやしてくる。
 だから咄嗟に昔からの癖で毛先に指を絡めようとして空ぶる。男装する時に切ったのに、ついついやっちゃうんだよなあ。
 ふう、と溜め息が勝手に零れる。それとほぼ同時にドアノブを回す音がした。

「監督生、ここにいたの……か……」
「あっ」

 いつの間にかデュースが訪れる時間になっていたらしい。扉を開けた彼が私の手元の本を見て固まる。
 どうしよう、めっちゃ気まずい。私は別に怒ってもショックを受けたりもしていないんだけど、どんな風に反応したらいいんだろ。
 うーんとりあえず冗談めかして乗り切るか。下手によそよそしくされるより、いじられる方がマシと弟も言っていたことだし。
 だがこの時、私は自分がエースのように適度にからかうのが得意ではない事、そして経験もほぼほぼないことを失念していた。センスがない以上、そっと本を置いて無言で立ち去るべきだった。
 迷ったあげく、ちょうど開いていた件のページを彼に広げて見せつける。

「えーっと、デュース、このページ気に入ってるの? 折り癖ついてるけど」

 数秒後、オンボロ寮に響き渡ったデュースの悲鳴に、しくじったなあと私は他人事のように考えていた。

「今度からは隠す時は言ってね、掃除する時に気をつけるから」
「その優しさは逆に辛いんだが」

 土下座を決め、今にも切腹もかましそうだったデュースをいなして。おかげでだいぶ落ち着いたようだが、彼は一向に目を合わせてくれない。
 エロ本が私に見つかった男の人って誰しもこんな感じなのか、兄弟達とまるきり同じ挙動に思わず苦笑いになる。
 それはともかくこの本はどうするのだろう。別に私は持って帰っても、置いて帰ってもどちらでもいいのだけれど。
 気まずい雰囲気の中、居住まいを正したデュースが表情を引き締める。

「あの、監督生、さっきの質問の答えだが」
「なんのこと?」
「僕はそのページ、というか、そこに載ってる女優が気になって」
「ああ、おっぱい大きいし、美人だもんね」

 女である私の口からおっぱいという言葉が出た事にデュースは「おっぱ……?!」と動揺していた。
 そんなウブな反応されると私の方まで恥ずかしくなってくるんだけども。女でもおっぱいぐらいは言うからね……。
 それにしても、こんな言いにくいことまで返してくれるなんて律儀だなあ。デュースのそういう所は好ましい。けど今回ばかりはちょっと困る。

「胸、というか、たぶん、似てるんだろうなと、思って」

 しばらくして、いつも堂々としている彼にしては珍しく、歯切れの悪い言い方でデュースが口を開く。
 主語がない為、何に似ているのか私にはわからない。
 ただなんとなく彼の好きな子とか、そういう感じなんだろうなと見当を付ければ、また胸に何とも言えない不快感が募る。
 どうしてだろ、むかむかする。自分でも何に苛立ってるのか、わからない。

「……監督生は最近まで髪、長かったんだよな?」
「そうだけど、私、デュースにその話、言ったっけ?」
「監督生、毛先をくるくるする癖あるだろう? あれをしては微妙な顔してるから、たぶんそうなんだろうなって」

 話題が切り替わった事を不思議に感じつつも、もう流したいのかなと特に蒸し返すことなく話に乗る。
 その癖に気付くなんて、デュース私のこと結構見てるんだな。私なんか自分のことなのに髪の毛を切るまで気付かなかったのに。
 その瞬間、さっきまでの胸の内で濁っていた気持ちが少しだけスッとする。なんか自分でもわからないけど、先程からずっと感情が忙しい。
 考え事を終え、ふと顔を上げればデュースの頬が赤く色付いていた。
 この僅かな間に何が起こったのか。思わず、ぽかんとマヌケな表情を晒す私にデュースはいかにも緊張した様子を見せていた。
 空気が変わる。これは気安い友人に対する雰囲気ではなかった。

「髪色とか目とか顔立ちとか近いだろ。だから、きっと、その本の女性は、女の子の姿の監督生に似てるんだろうなと思って、それで」

 これ以上ない位、赤い顔でデュースが口にする。もうこれ、自分でも何を言っているのか、デュースわかってないんじゃないだろうか。
 そんなにぶっちゃけってどうするの。ちょっと冷静になろう、とんでもない事言ってるよ、デュース。

「つまり、僕は監督生が好きだ!!」

 混乱したまま、強引に結論を出したデュース。だが全く説明になっていない。このムードもきっかけを考えるとナシだと思う。
 なのに「私も」と先程気付いたばかりの気持ちを返してしまう自分がいた。

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