貪食
初めてのキスは血の味がした。
なんて表すとシリアスな雰囲気がするけれど、実際はお互いキス未経験者で、そして不器用だったが為に勢いあまって、私が彼の唇へ歯をぶつけてしまっただけである。
その結果、デュースの唇が切れて流血沙汰。と、そうして私達のファーストキスは散々な結果に終わってしまった。
ただ普通こんな展開になってしまえば、気まずくなりそうなものだけれど、私達の仲はむしろ深まっていた。
というのも終えた後、幻滅されたかと不安になった私へデュースが血も拭わずに、いの一番で謝ってくれて。
むしろ被害者はデュースの方なのに、彼は私に嫌われないかとしょんぼりしていたのである。
そんなデュースの姿にやっぱり好きだなあと再確認しつつ、私も謝って。
次する時はゆっくりできる所で頑張ろうね、なんて約束しちゃうくらい、意気込んでいたのだけれど。
「ん、ふ、ぅ」
勉強会へ参加させていたグリムは「もうイヤなんだゾ」と逃げてしまった。
おかげで自室には私とデュースの二人きりになってしまい、ちょうどテスト対策はキリの良いところに来ていて。
だから私達があの日のやり直しを始めてしまったのはごく自然なことだったのだと思う。
「でゅ、ま、って……んっ……」
一瞬離れて、またすぐ塞がれる。唇を合わせられながら、私は混乱の淵にいた。今からキスをされるとわかっていた、そしてまさにその通りになっているのに。
前回と違って歯は当たってない、痛くなくてむしろ気持ちよくて。だが想像していたものとあまりに違いすぎて頭が追いつかない。そっと触れるだけ、そう思ってた。だってまだ二度目なのだから、なのにどうしてこんな。
本日初めてのキスは想像していたままだった。
だけど現在進行形で何度も何度も唇を重ねられて、しかもどんどん長くなってしまっている。こんな事になるなんて知らなかった。
デュースはどうやって息継ぎしているのだろうか。私の口からは下手くそな呼吸の合間に変な声が漏れていく。ただでさえフリーズしている思考回路が酸欠で余計に劣化していく。わからない、苦しい、気持ちいい。
もう無理だ。ゆるして、そう訴えるように彼の服を握りこむ。しばらくしてデュースの唇が私を食むのを止めた。
「、大丈夫か?」
彼の気遣いへ正直に首を横に振るう。
予想外だったのか。この返答にデュースが狼狽しているのが見えたが、私だって困惑しているのだ。
どうしてこんなに上手くなってるの、あの日が初めてだったのに。
嬉しいのと、なんだか悲しいのと、それから疑問と、色んな感情がごちゃ混ぜになって、自分でも訳がわからないまま、ぽろぽろと涙が落ちる。
それにデュースは更に慌てふためいていた。焦る彼がかわいそうだと思う、だけども泣き止めそうにもない。
「すまない。嫌だったのか……?」
「なんで、なんでっ、デュース、キス上手になってるの。まだ二回目なのに」
「えっ、えっと、練習したから、だと、思う」
「誰と……?」
「人じゃなくて枕なんだが」
まくら、彼の言葉を復唱する。思わぬ練習相手に涙が引っ込んだ。
一生懸命、枕へ口付けるデュースの姿が容易に頭に浮かんだ。そんなに私とのキスに期待してたり、努力してくれていた事は喜ばしいのだけれど。
まさか枕に嫉妬してたなんて……恥ずかしさに思わず俯く。
そんな私の下唇をデュースの親指が撫でる。緩やかになぞる指がこそばゆい。
名を呼ばれ、顔を上げた私の視界に切羽詰まった表情のデュースが映る。彼の緑色、そこへ宿った熱がジリジリと私を焼く。肌も、心も、あつい。
すり、ともう一度、彼の指の腹が唇をくすぐった。
「……嫌か?」
横に振るった顔が彼の手に捕らえられる。
そうして私の吐息は再びデュースによって食べられ始めた。