カウントダウンはそっちのけ
「エース、今更だけど本当に良かったの? 今日も付き合ってもらっちゃって……」
「どうせ暇してたから。別に実家はいつでも顔見せられるし、そもそもこの国だと新年って友人と過ごすのが一般的だし」
卒業して初めての年末。今年最後の夜をオレはの家で過ごしていた。
オレは実家近くの研究所に勤めているのだけれど、オレが一人暮らししている家とここは目と鼻の先だ。
近くにいたらいつでも助けられるじゃん!と、なんとか丸め込んで、就職先に悩んでいたを薔薇の王国で働くように誘導したから。ただ幸いにもにとって好条件の勤め先があったし、実際何かあれば手助けしているのだから許されるだろう。
普段からオレはの家へたびたび訪ねている。グリムやゴーストとの賑やかな日常からの一人暮らしは寂しくて仕方ないらしく、はオレをいつだって歓迎していたし、もオレの家へと遊びにくることもあった。
そうやってコツコツと信頼を積み重ねたおかげあって、クリスマスに引き続き、年越もオレと一緒に過ごすことをは選んでくれた。
「エース、次、なに飲む?」
「うーんロゼにしておこうかな。お前はほどほどにしとけよ〜」
「ウ゛ッ、その節はご迷惑おかけしました……」
お手製のピザを片手に忠告すれば、グラスを差し出しながら彼女は申し訳なさそうな顔を見せる。
本当はクリスマスに告白するつもりだったのだ。ありきたりだけど、逆に言えば、うってつけの機会じゃん。
だがそんなに酒が強いわけでもないのに飲み過ぎたが早々に寝てしまって、オレは朝まで放置されるハメに。あの時はめっちゃムカついた。
計画を台無しにされたのもそうだし、いくら友達でも男と二人きりの状態で寝るって全くオレのこと意識してないなって。まあそれ以上にあまりの無防備さに、コイツ大丈夫か?って心配の方が勝ったんだけど。
さすがに好きな子と二人きりだろうと、寝ている相手を襲うほどオレも落ちぶれてない。ただ安心しきった寝顔が可愛く思えて、ちゅーはしたけど。
景気づけのつもりでグラスに注いだワインを一気に飲み干す。口の中にチェリーのフルーティだがすっきりした味わいが広がった。今日こそ絶対に決める。
企みを秘める今のオレの目はたぶんかつてないほどギラギラしていることだろう。酔いのおかげで気が大きくなっているのもあって余計に。
そんなオレの下心には全く気付いてないはくぴくぴとミネラルウォーターを口にしている。さっきの缶ビールの影響か、その頬はほんのり赤いままだった。
オレのグラスが空になっているのに気付いたが注ごうとするのを止める。別にほど弱くないけど、特別強いわけじゃない。だからクリスマスの二の舞にならないためにも控えたんだけれども。
「えーす、もう、のまないの……?」
何故かおかわりを拒むオレには戸惑った顔を見せていた。え、なに、どういうこと?
というかコイツ、もうだいぶ酔い回ってるな。なんかちょっと既に口ぶりが怪しいもん。
頼むから寝るなよ!!と祈るオレを嘲笑うかのようにがもたれかかってくる。こらこらこら寝るなってば〜〜!
「……えーすが、よってくれなきゃこまるのに」
「困るって……お前、オレのこと酔い潰したいの?」
「ううん。よってたら、うっかり、てをだしてくれるかなって」
「…………は?」
の口から飛び出た、とんでもワードに思考が停止する。
そんなオレの大混乱などお構いなしに、は「すき」とオレが学生の頃から言えなかった言葉を口にする。とろりと熱を帯びた目でオレを見つめる彼女、酒に濡れた唇がいやに艶めかしい。
それからクリスマスの時も同じ事を考えていて、だけど緊張しすぎた結果、飲み過ぎてしまったとは続ける。
まだハテナマークが収まってないのに再び投下された衝撃情報に頭がパンクしそうだ。
つまりオレ達は両思いで、ついでには既成事実を狙っていたと。ああ、でもコイツのことだから事故だとか言ってなかったことにしようとするんだろうな。オレが友達としか思ってないって決めつけて、勝手に綺麗な思い出で終わらせるんだろ、お前。
ありありと浮かぶの思い通りの結末にオレが覚えたのは怒りだった。ふざけんな!
近くにあった未開封のミネラルウォーターをひっつかむ。キャップを捻って傾ければ、冷蔵庫から出したばかりだからキンキンに冷えた水が喉を通っていった。
その冷たさに酔いは醒めていくが、怒りは燃え上がったまま。半分自分で飲んだ後、残りを口移しでに飲ませる。
口の端から多少こぼれたけれど、ちゃんとは飲み込んだようだ。アルコールが薄まって状況が理解できるようになったのだろう。今度は彼女がパニックになる番だった。
だが知ったこっちゃない。遠慮無しにもう一回唇を塞ぐ。
「酔ってなくたって、しっかり手を出すっつーの」
事故にも思い出にもしてやるもんか。そうキレながらの服の中に手を突っ込む。
煽っておきながら怯える。ただそれは今からの行為ではなくて、諦めきっていた恋が叶うことに対してなんだろう。だから退路を断つ為にも「ずっと好きだった」と口にする。
初めてはようやく言えたけど、今までの分は来年どころかもっと未来にまで持ち越してやるからな。覚悟しとけよ!