夜のオカズウォーズ
「ハンバーグ!」
「余り物ぶちこみカレー!」
「お買い得野菜のバターいため!」
昨日、一昨日、三日前の晩ご飯を声に出すものの、一向に扉が開く気配はない。確定してないが、挽肉が余ってるので今晩予定している「ロールキャベツ!」も叫んでみたが、やっぱり私の声が響くだけで終わってしまった。
「……うーん、全然ダメだなあ。エース、まだ思い出せそうにない?」
びくともしない『どちらかが夜のオカズを言わないと出られない部屋』と書かれた扉から、一緒に閉じ込められたエースへと視線を移す。
自分に任せてほしいと自信満々に言った手前、若干恥ずかしいものの万策尽きしまい、もうお手上げだ。
植物園で明日の錬金術の授業で使う薬草をエースと取りに来たところ、いきなり眩しい光に包まれて。気が付いたら私とエースはこの部屋へと転移していた。
たぶん最近、注意喚起が流れていた妖精による仕業なんだろう。脱出したら先生に報告しておかないと。
NRCの民度を考えると外部からの救出はあんまり期待しない方がいいと思う。ハーツラビュルの門限までに戻れなかったら、リドル先輩が探しに来てくれるかもしれないけども。
だが、この謎空間が現実と同じ時間軸とは限らない。あいにく部屋には出口となる扉しかないから、もし外の時間が殆ど流れてなかった場合は助けが来なくて飢え死にだし、逆に外の時間がすごく早かったら浦島太郎状態になってしまう。どっちもゴメンだ。
あと私はエースのことがラブ的な意味で好きなので。彼と二人っきりの状況にドキドキしてしまって心臓によろしくないから、一刻も早く脱出したいんだけどなあ。
「ごめんね、いけると思ったんだけど」
「……別に最初から絶対無理だろうなってわかってたし」
「そんなっー?!」
意気込む私に対して、エースが呆れたような目をしていたのは気のせいじゃなかったのか。
がっくりと肩を落としたものの、だんだん怒りが湧いてくる。人のこと、そんな風に言うならエースはいけるんだよね。そう目で訴えかける私にエースはなんとも気まずそうな顔をしている。
そりゃそうだろう。だってお題を見た時、エースは全く思い出せなかったみたいだし。その証拠に普段は饒舌な彼にしては珍しく、さっきまで口を開こうとしなかった。
今もきっと思い出せずにいるんだろう。彼の形の良い唇はぴったりと閉じたまま。
しばらく視線をさまよわせた後、エースはじっと私を見る。そ、そんな弱々しい表情見せたって許さないんだからね!
「………………監督生」
彼の呼びかけに私が答えようとしたその時、ガチャンと扉の方から音が聞こえた。
何か言うよりも先に、スタスタとエースが扉に近寄ってドアノブを開く。それと同時に眩い光が扉から溢れきて、気付いたら私達は元いた植物園に戻ってきていた。
スマホで確認したが、閉じ込められた時からさほど時間は経っていないようだ。
「なんだったんだろう」
「妖精のイタズラに理屈求めるだけ無駄だって。疲れたし、さっさと薬草回収終わらせよーぜ」
「うん、そうだね」
なんとなく話を逸らされてる気がする。でもそれより同意の方が勝った。緊張しすぎたせいか、湧いてきた疲労感に早く寮に帰って休みたかったのだ。
一刻も早くこなすには珍しくエースもやる気になっている今がチャンス。なので彼に促されるまま、私達は薬草探しに精を出すのだった。
◇
お風呂上がり、あとは寝るだけだが私はベッドの上でスマホとにらめっこしている。
寝る前にブルーライトを浴びるのはよろしくないけど、あの軟禁事件から数日、ずっと引っかかっていることがあったのだ。
「絶対アレ『監督生』で開いたよなあ……」
だけども私はエースの晩ご飯になった覚えはない。ということは、おそらく『夜のオカズ』は何か別の意味があるんだろう。
でもエースはあの反応からして答えてくれない気がする。何事もなかったかのような彼のふるまいは、いかにもアレに触れてほしくないのがありありと伝わってきた。
だがこの疑問が晴れないと気になってゆっくり眠れそうにない。なので解決のためにも早速スマホで検索してみる。
「えーっと『夜のオカズ』と……ミ゛ッ」
私のスマホはフィルタがかかっているはずなんだけれども、それを貫通してなんかエッチなサイトがいっぱい出てきた。
ということはあれはエッチな言葉の隠語なんだろう。動揺しすぎて変な声を上げてしまったが、続けて『夜のオカズとは』で検索をかける。
学園長には検索内容を知られているので何か言われてしまうかもしれないけど、もう一回やってしまった以上、二回も同じかなと。表示されるまでの間、変に緊張してスマホを持つ手が震えていた。
「ひええ……」
検索結果が表した答えに情けない悲鳴がこぼれる。たぶん私の顔はとんでもなく真っ赤になっているだろうから、グリムが今日はクラスメイトのところへ泊まりに行ってくれていてよかった。見られたらきっと心配させてただろうし。
つまりエースは私でそういうことをしてるってこと……? あ、だから部屋から出た日の帰り際「クルーウェル先生にはオレが報告しておくから、お前は行かなくていいから」って念押ししてきたのかな。
私はエースの好みから外れてる。エースはおっぱいが大きい子が好きだから、私が選ばれたのはきっと身近な女の子が自分しかいないからなんだろう。男の子のそういう事情はよくわからないけど、私が一番手頃に想像しやすいのかなって。
だけどそれでも好きな人に選ばれたのが嬉しくて。それからエースに他の女の子のえっちな姿を想像してほしくないと思う。
「……よし!」
後日、絶対に怒られると思う。だけども浮かんだ迷案(誤字ではない)のままに私は行動に移すことにした。深夜テンションって怖い。
◇
ルームメイト達と毎日交代で一時間ほど部屋を独り占めできる協定を結んでいる。理由は、まあ……お年頃なんでとしか言えない。
で、今日は四日ぶりにオレの番がやってきたわけなんだけども。
ただいま頭に浮かんでいるのはいつもののえっちな妄想じゃなくて、数日前のあの災難である。好きな子にお前でヌいてるって告白させられるとか、これなんて拷問?
まあ幸いにもは『夜のオカズ』の意味、知らないみたいだったけど。なんで開いたかもわかってない様子だったから、ひとまず安心していいだろう。
今日も別に変わった様子はなかったし。アイツすぐ顔に出るから、知ってたらめちゃくちゃギクシャク決まってる。
気を取り直して、さっそく楽しもうとしたちょうどその時、スマホにメッセージが届く。
これが部活の先輩とかなら後回しにしたけど、からのメッセージだったから、つい手に取った。
「は?????」
メッセージを開いて、目に飛び込んできた画像にかつてないほどの大声が出た。防音魔法をかけてなかったら、隣の部屋にも聞こえていたかもしれない。
から送られてきたそれに文章はなくて一枚の写真だけ。真っ赤な顔をしたの自撮り、膝立ちした彼女の前がはだけたシャツからはハートモチーフの下着が覗いている。自分の頬をひっぱってみるが痛い。
即行アイツに電話するけど、電源を切っているらしく繋がらない。言い逃げならぬ送り逃げ。今からあいつの寮に乗り込んでやろうにも、プレフルの一件から脱走ルートは割れてしまっているので抜け出すのは難しいだろう。
下着のデザインからして送り先を間違えたとは考えにくい。じゃあ、いったいアイツどういうつもりで。考えたってわからないけど、たぶん悪い事にはならないだろう。
明日めちゃくちゃとっちめてやる。情緒をぐっちゃぐっちゃにされながらも、オレはそのベストショットを早速しっかり活用するのだった。