へたっぴ抜群テンプテーション

「エース、さわってさわって全身すべすべ!」

 お風呂から上がってきた恋人がキラキラした目で腕を差し出してくる。無邪気にはしゃぐ彼女はオレの機嫌が微妙に悪い方へ傾いていることなんて気付いていないんだろう。
 彼女がきゃあきゃあと喜んでいるきっかけ。それはケア用品にあまりお金をかけられないを見かねたヴィル先輩がプレゼントしたボディスクラブのおかげだ。
 先輩には下心がないことはわかってる。猛獣使いっていうか、人たらしというか、真面目で頑張り屋の彼女は先輩やら先生に可愛がられるタイプで。ヴィル先輩にとっては可愛い後輩に女の子としての楽しみをもたらしてあげたかっただけなんだろう。オレという彼氏がいる恋する女の子なのだから、なおさら。
 わかってても彼氏としては恋人が他の男からのプレゼントで大喜びしている姿はなんとなく気に入らない。このウキウキ具合から、そんな複雑な男心を察していないことは明らかだった。
 とはいえ、せっかくのスキンシップを断るような馬鹿な真似はしない。ごちゃごちゃ言っててもオレも健全な男子高生なので。あと今夜はオンボロ寮に泊まっていく?と聞かれた時から触る気満々だったし。

「……確かにいつもより触り心地いいかも」
「でしょー!」

 だとしても、それを作り出したのが他の男からのプレゼントって時点でマイナスなんだけど。
 モヤモヤしているオレと違って、へにゃへにゃ笑う。いつもなら可愛いと思えるのに今日はちょっぴり気にくわない。
 苛立ちからすぐに離した手で、思わず彼女のほっぺをむにむにと摘まむと「そこは使ってないよ」とクレームが入った。でも知らんぷりで彼女の頬をいじめる。オレに弄ばれ、あうあう唸ってる姿に少しだけ溜飲が下がった。
 とりあえず、このくらいにしてやろうと指の力を抜く。解放されたはさっきまでオレに揉まれていた頬を抑えながら「なぜ……」と言わんばかりの顔をしていた。
 どうせお前にはわかんないだろうね。認めたくないけどただのヤキモチだよ、悪かったな。絶対言ってやんないけど。
 むすっとしているだろうオレに対して、は様子を窺うようにチラッと視線を向ける。それから彼女はなんだかそわそわし始めた。

「あのね、エース、今の私、全身すべすべだよ」

 ほんの少し前に口にした台詞をはリピートする。
 それにオレは苛立った声で「さっきも聞いた」と言いかけて、スッと口を閉じた。いつの間にか赤面していたと目が合ったから。縋るような眼差しは潤み、情事の最中のような色っぽさを孕んでいて。興奮に思わず喉が動く。

「だから、腕だけじゃなくて、全部すべすべで……」

 それだけ告げるとは黙り込んでしまった。
 ここから更にアピールすべきだろうに、これがの精一杯なんだろう。まあ彼女の性格を考えれば、慣れないなりにかなり頑張ってるんだけどさ。
 物わかりの悪い奴が相手なら骨折り損だったろう。だからオレが察しが良くて、堪え性のない彼氏だったのはかなりラッキーだわ。
 あーもうっ完全に油断してたっつーの、不意打ちクリティカル決めやがって。おかげですっかりくだらねー嫉妬ぶっ飛んだわ。

「はいはい、頭の先から爪先まで全身くまなく堪能してやるよ」

 不器用な彼女のド下手なお誘いに、悔しながら情緒をめちゃくちゃにされたオレはの思惑通り、彼女の柔肌へと手を伸ばした。

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