一番言っちゃダメなやつ
【オレさ、実は彼女いるんだよね】
エースからそれを伝えられたのは四年生になってしばらく経ってのことだった。
進級して学園で顔を合わせることが殆どなくなったが、一年の時から仲の良かった友人達とはメッセージグループで頻繁に連絡を取り合っていて。
にも関わらず、個人チャットで連絡が来たから何かと思えば、さっきの報告だったというわけだ。
てっきりインターン先で作ったのかと思えば、三年の時には既に付き合い始めていたらしい。全然気付かなかった。
他のメンバーにはまだ明かすつもりはないとのことだが、僕に対しては「デュースだったら、まあ言ってもいいかなって思っただけ」と。つまり、それだけ僕を信頼してくれているのだろう。
色々話したいことがあると言われて電話に切り替えれば、そこからはエースの彼女にまつわるマシンガントークが始まった。元々おしゃべりな奴だけど、いつも以上に饒舌だったように思う。どれだけ話したかったんだ、こいつ。
どうもその"可愛い彼女"とやらにエースはベタ惚れのようで、彼女とのエピソードを語る彼はとことん浮かれきっていた。アイツ、しっかりしてるように見えて意外と抜けてるから目が離せないなんて愚痴っぽく言いながら、その実、声は優しくて。
コイツ、ノロケたいから僕に明かしたんだなと悟りつつ、エースの話を聞いた僕はもう一人のマブのことを思い出し胸を痛めていた。
僕のもう一人のマブであるはエースが好きだった。
彼女に恋愛相談をされるようになったのは一年の終わり頃からで。長い期間、密かに彼女の恋が成就するように色々手伝ってきたのだけれど。
そういえば最近はまったく相談されてなかったな。
もしかしたらは僕よりも先にエースに彼女ができたことに気付いたのかもしれない。ずっと一途にエースを見ていたんだ。なんらおかしい話じゃない。
落ち込んだ様子なんて一切見かけなかったけど、気遣い屋ののことだから、下手に心配掛けまいと隠し通したんだろう。
もう彼女自身で乗り越えている以上、僕にしてやれることは何もない。ただもし頼られた時には全力で協力するつもりだ。
◇
NRCを卒業し、数年経った今も僕らの友情は続いている。在学時からのグループは一人も抜ける事なくこまめに連絡を取り合ったり、都合が付いたメンバーで定期的に飲みに行ったり。
ついでにエースの交際と、僕へのノロケも続行していた。
「エース、お前、僕にノロケるわりにはシモい話はしないんだな」
『は? なに急に』
「いや、お前以外の奴はノロケってなると高確率でエロトーク聞かされるからな」
いつものようにエースのノロケを聞いていたある日、僕はなんとなく気になっていた事を聞いてみた。
エースほどではないが、同僚やらに惚気てくる奴はいる。ついでに夜の生活は鉄板とばかりに飲み会で聞かされることも少なくない。おかげで多少下ネタに耐性が付いたなあと自分でも思っている。
だから別に好き好んで聞きたいわけじゃないが、お前が話したいならかまわないぞ、と。
そんなつもりで切り出したのだが、エースは僕の善意を鼻で笑った。
『童貞のデュースくんにセックスについて語ったって意味ないでしょ』
「ぶっ殺すぞ」
『本当のこと言っただけじゃん、そんな怒んないでよ』
事実だからって言っていい事と悪いことがあるだろ。自分が彼女持ちだからって調子乗りやがって……!
次会う時に絶対殴ろうと誓いながら、今日はもう電話を切ろうとしたその時だった。
『そもそもオレしか知らない彼女の可愛いところ、想像されたくないし……』
「……エース、お前それは重くないか?」
『うっせ!』
彼女の内面についてはよく知らされているが、外見はさっぱり教えられていないというのに想像も何もないだろう。とりあえずNRCの時に見せられたエースがタイプだと言ってた金髪巨乳お姉さん系AV女優にしているが。
でも話を聞く限り、むしろ真逆っぽいし、むしろどこか覚えのあるような……。まあなんにせよ、本当にエースは彼女にゾッコンなんだな。
『それよりデュース、お前、来月の土日で予定開いてる日教えてくんない? 一番忙しいお前に合わせて予定立てるから——オレの奥さん紹介させてよ』
先日プロポーズに成功した足でそのまま籍を入れたと聞いて、やっぱコイツ重過ぎないかと思いながら、僕はスケジュール帳をめくった。
◇
「ってことでオレ達、結婚したから」
「初めまして。・トラッポラです……なんちゃって」
そして迎えた結婚報告の日。
僕、、グリム、ジャック、エペル、オルト、セベク……とお決まりのメンバーは、よく使うレストランのパーティルームに集まっていた。呼び出していたものの、急な案件でエースはちょっと遅れるとの連絡があって。
だから集まったメンバーで他愛のない話をしていた。そこで僕はとエースの結婚相手について語っていて、彼女が「たぶんびっくりすると思う」なんて言っていたのだけども。
よりにもよってがエースの奥さんを知っていたことで複雑な気持ちになっていた中、エースが到着してからのコレである。
エースとは二人並んでお揃いの指輪をはめた手を掲げる。どちらも幸せいっぱいですって顔を隠そうとしてない。関係については徹底的に秘めてたのにな。
それにあんぐりしている僕以外のメンバー。どうやらエースもも僕以外には恋人がいることを知らせていないし、ましてや皆は二人がそんな仲になるとは思ってもなかったようだ。
「デュース、あんまり驚いてないね」
「いや、僕も驚いてるぞ。うん」
ただエースの結婚相手がなら納得がいくのだ。
限りなく女性との出会いが少ないNRC在籍中に彼女ができたのも、から恋愛相談されなくなったタイミングとか、エースから聞いていた彼女の特徴に覚えがあるのとか。
ん? 待てよ、がエースの恋人だったってことは……。
「じゃあ、いつもエースが可愛い可愛いって僕に惚気けてた彼女ってのことだったのか」
独り言のつもりだったけれど、思ってたより大きな声になってしまったらしい。僕が呟いた瞬間、皆の祝いの言葉で溢れていた空間が水を打ったように静まった。
目を見開いたエースがパクパクと口を開閉させているが声は出ていなくて。はぽかんとしながら、じわじわ頬を赤くしていく。
対して他のメンバーは祝いムードから一転、ニヤリとNRC生にふさわしい笑みを浮かべた。もちろん僕だって同じ。
もう的には吹っ切れているかもしれないが、彼女のいる場では一応止めておくかと思っていたが、がエースの奥さんなら何の遠慮もいらないな。そっと懐から僕はスマホを取り出す。
「、ここにエースが僕に惚気てきた時の通話音声があるんだが」
「させるかよ! っておい、ちょ、ジャック離せ!!」
「いいじゃねーか。は聞きたそうにしてるぜ。可愛い番のお願いは叶えてやるのが雄の勤めってもんだ」
「もっともらしいこと言ってるけど声笑ってるんですけど?!」
僕に飛びかかろうとしたエースをすかさずジャックが羽交い締めにする。恨むなら迂闊に童貞へ長々と恋バナを聞かせた自分を恨むことだな、エース。
「デュース、お前、ホントやめっ、あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!!!!」
発狂するエースの声のBGMと、期待に満ちたの視線を背景に、僕は再生ボタンを力強くタップした。
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