バースデーとサプライズ
ここ最近、がこそこそとオレに隠れて何かしている。まーバッチリわかってるんだけどね。
出勤前に確認した壁掛けのカレンダーには23日、つまり今日の日付が花丸で囲まれていて。
その下には『エースの誕生日!』と、すっかり見慣れた嫁の文字で刻まれていたから。
あと昨日、例年通りサクランボを買い込んでたし、これで察しないのはムリでしょ。学生の頃から変わらず、はサプライズ下手だよな。
ただ今までは前もって話題に出して、オレへのプレゼント選びの参考にしてたんだよね。
だからなんで今年に限っては隠れて準備してるのかはちょっと気になる。
まあ何にせよ、喜ぶ準備はできてるし、仕事をさっさと終わらせる為のモチベーションになっているわけで。
出勤にしてはウキウキとした足取りで、オレは会社へと向かうのだった。
◇
「エースおかえりなさい! もう匂いでバレてるだろうけど、夕飯はエースの好きなもの、いっぱい作ってあるからね」
パパッと仕事を終わらせて帰宅した俺を出迎えたのはいつも以上の笑顔を見せるエプロン姿の奥さんだった。
オレの誕生日祝いなのに、お前、自分が祝われる時よりも楽しそうじゃない?
そんなところにグッときてしまうオレがいる。しょーがないでしょ、好きなんだから。
気を取り直して彼女の後に続いてダイニングへと向かう。
テーブルの上には前菜、スープ、メインディッシュの肉料理、端から端までごちそうが並んでいて。きっと冷蔵庫の中には大きなチェリーパイが隠されていることだろう。
さっき彼女が言った通り、本日のメニューはオレの好きなものばっかりだった。
と向かい合う定位置の椅子に腰掛ける。
用意されていた二つのグラスに、が別々のドリンクを注いだ。オレにはワインが提供されたけど、お酒に弱い彼女はいつも通り炭酸水らしい。
飲み物の準備が完了したところで、の影響で習慣づいた「いただきます」を唱えて、お互いのグラスを乾杯する。赤色と透明に満ちたグラスが重なり、軽やかな音を立てた。
の料理はいつも美味しいけど、今日は特段食べる手が止まらない。
小食なせいで先に食べ終わったは、そんなオレをニコニコと嬉しそうに眺めていた。
「ではお待ちかねのプレゼントはこちら! エース、お誕生日おめでとう」
「ん、サンキュー」
デザートのバニラアイスを添えたチェリーパイ(残りは明日の朝、温めてホットカスタードを載せてくれるらしい)も食べ終えて、ごちそうさまをしたならば、綺麗にラッピングされた箱をは差し出してくる。
早速包み紙を剥がしたところ、中から品のある黒色の腕時計が出てきた。
手に取って盤面の裏を見る、まさかとは思っていたけど刻まれていたロゴに目を丸くした。
「これ、ヴィル先輩がプロデュースしてるやつじゃん。よくゲットできたな」
「使えるものはなんでも使ったからね。エースの好みで選んだつもりだけど……気に入った?」
「まあね。おかげでお前の次の誕生日プレゼントで頭抱えそー」
卒業したら普通、その頃の人間関係って疎遠になりがちなんだけど……どうやらオレの奥さんはNRCで築き上げた人脈を結婚した今もなおバリバリ活用しているようだ。
の現在就いてる在宅の仕事も先輩達に斡旋してもらったやつらしいし。
と、がそんな感じだから、オレ達の結婚式、有名俳優、大富豪、王族に、って一市民のものとは思えないぐらい、ゲストがやばかったんだよな。
当時のことを思い出す。あの時はマジで大変だった。ちょっとしたニュースにもなったし。
でもそれよりウェディングドレス姿のが、心から幸せそうに笑っていたことが記憶に焼き付いている。
オレのお嫁さんになったは世界で一番綺麗だったし、オレは世界で一番幸せ者だよなって。
……自分でも自分らしくない、こっぱずかしい事を考えてるなと思う。NRC入学したばっかのオレからは考えられない。
オレがこうなったのは間違いなくの影響だ。がそういうタイプで、そんな彼女を好きだから引きずられてしまっている。
今も昔も、オレはに振り回されてるんだよな。はたぶんオレに振り回されてると思ってるだろうけど。
まさか成人してすぐに結婚するとも思ってなかったし、お前のことを好きになるまで自分がこんなにも恋に飲まれる男なんて知らなかった。
だって正直お前とずっと一緒にいるのって、めちゃくちゃハードル高かったじゃん。
お前の立場とか、元の世界の件とか、オレただでさえ面倒ごと嫌いなのにさ。
実際かなり悩んだし、色々厄介ごとだらけだった。お前はお前でオレのためとか言って身を引こうとするしさ。
でも、それでも、オレはお前を絶対諦められなかったんだよな。心底惚れてたオレの負け。ま、おかげで今すごい幸せなんだけど。
「そういえばエース、実はもう一個サプライズ用意してるんだよね」
「サプライズ?」
「うん。はい、どうぞ」
そう言っては真っ白の封筒を差し出した。開けてみて、と促されるまま封を開ける。
中から出てきたのは手紙、じゃなくて、黒地に白いモヤがかかった写真だった。半円っぽい黒の穴の中に白い豆粒みたいなものが映って……。
の顔を見る、写真を見る、またの顔を見る。ピースではなく月数を示すためか、三本の指を立てて彼女はニコニコしていた。
「木を隠すなら森の中、じゃあサプライズするなら隠し事の中かなと思って——おめでとう、パパ」
そういえばって大人しそうな外見とは裏腹に意外と強かだった。
それだけじゃないけど、そのギャップにやられたのになんで忘れてたんだろ。
見事に出し抜かれたオレは、のほほんと衝撃告白するに『やっぱオレの人生こいつにぶんぶん振り回されてるな』と思いながら、ニヤニヤする口元を隠したのだった。