いつか薔薇の王国で
私は昔からカワイイぬいぐるみ、特にテディベアに目がなかった。
だから元の世界にいた頃は、よくファンシーショップやフリマとかで、色んな子を買い集めていたのだけれど。
ツイステッドワンダーランドに来てからは日々の生活だけでカツカツだったのと、バレたらNRC生の性格的にからかってきそうだから、この趣味からは長らく遠ざかっていた。
そんなある日、私は学園内でとてもかわいいテディベアを拾ったのだ。
久しぶりの出会いにウキウキと心躍らせていたのだが、そんな場合じゃなかった。
朝見たらいなくなっており、処分したとエースに言われて驚いたが、聞けば納得するしかない理由だった。
私が拾ったのは魔法道具の一種であり、魔力で動くタイプの人形だったらしい。
今回は魔力切れだから良かったものの、中には一定条件で爆発したり、対象者を追跡し続け、常にGPSで位置情報を発信するような危険なものがあるのだと。
だからオレがいない場所で下手に何かを拾ったりしないでとエースに諭されてしまった。
エースはむやみに人が大切にしてるものを傷つける人じゃない。それに説明してくれた時の様子や、私が眠ってすぐに処分したり、あえてどういった効能だったのか言わないところからして、相当危険な物だったのだろう。
自分の危機感のなさでエースに余計な心配をかけてしまった。
そう深く反省したのが先週のことだ。
「ふ、ふわああ……!」
「そんな喜ぶなら連れてきたかいあったわ」
今日は麓の街でエースとデートだった。
帰る時間が近づいてきた頃、彼が行きたい店があるのだと言い出して。
エースに案内されるまま、付いていった先はテディベアの専門店だった。
左を見ても、右を見ても、魅力溢れる素敵な子ばかり。感動に変な声は出たし、自分でも目が輝くのがわかる。
だが喜びも束の間、寂しい財布の中身を思い出して、スンッと冷静になってしまった。
一応彼とデートする以上、ある程度は持ってきてたんだけど、たぶんここで何か買ったら次の支給まで生活レベルを更に下げるしかない。
これがフリマだったら、とことん値引き交渉するんだけどなあ……。
せめて写真撮らせてもらえないか、悩む私の頭をエースがぽふぽふとなでる。
「オレこういうのわかんないから好きなの選んでよ、あんま高いのはナシな」
「え?」
「付き合って半年記念ってことで」
エースって、そういったのめんどくさがるタイプなのに。まあ私もなんだけど……。なんてことないように甘える理由をエースは与えてくれる。こういったところ、本当に好きだなあ。
彼の優しさにトキメキながら、その言葉に甘えて一緒に店内を見て回る。
「エース、わざわざお店探してくれたんだね」
「まあ立地的に絶対あると思ってたし」
お店は少し入り組んだ場所にあった。表道路に面していない以上、事前に調べていないと辿り着けなかったと思う。
エースが私みたいにぬいぐるみを集める趣味があるなんて聞いたことないし、私の為に探してくれたのは確実だった。
そうして気付いた事を言葉にすれば、ショーケース内の特に高価な子を眺めながら、エースが意外な答えを返してくる。
テディベアが賢者の島発祥とかなんだろうか。でもさっき店内にあった説明だと違った気がする。
首を傾げつつ、もう一度確認しに行こうとしたところ、エースが口を開いた。
「薔薇の王国って生まれた時にテディベア贈る風習があるんだよ。兄弟兼友達として生まれた時から一緒にいるおかげで、性別問わず大きくなってからもテディベア好きな奴多いんだよね。お祝いとかでよく贈られるし。で、うちの学校もRSAも薔薇の王国出身の奴が多いからさ」
「なるほど」
だからショーウィンドウを飾ってる他にもベビー向けの大きいコーナーがあるのか。
あと何となく知ってる限りの薔薇の王国のメンバーがテディベアを抱えているところを想像したが、すごく似合ってた。もしかしてこれがギャップ萌え……?
そんなちょっとIQの低いことを考えていた最中、パッとあるテディベアに目を奪われる。
「かわいい……!」
赤茶色のふわふわの毛並み、珍しい赤いガラスの目。茶目っ気を感じる表情も実に好みだ。
付属品のマジカルペンによく似たアクセサリーもこだわりが見えて素敵。
なんて、よくよく見てるとエースに似ていることに気付いて、少し恥ずかしくなる。
でも、もうこの子以外は考えられなかった。
「じゃ、買ってくるから」
「うん。ありがとう」
貸してと言われ、持っていたその子を渡す。
受け取ったエースはひょいと、もう一匹手に取ってレジへと向かう。
「エース、待って!」
「なに?」
「えっと、その子は……?」
「引き離したら、かわいそうじゃん」
慌てて引き留めた私にエースは二匹がいた棚を指差した。
どうやら商品の説明を読むと単体でも売っているが、あの二匹はペアだったらしい。
私が選んだあの子より一回り小さくて、黒い毛並みと焦げ茶の瞳を持った子だった。
どちらかというとテディベアは明るい色の生地が多いので、これまた珍しいタイプだ。
あと……ちょっと私に似てたかもしれない。
偶然とはいえ、そんな二匹がペアで売っていた事に、つい顔がにやけてしまう。
まだ頬の緩みが収まりきらないうちにエースが戻ってきて、からかわれたのは恥ずかしかったけど、でもやっぱり嬉しかった。
「エース、いつかまた一緒に買いに行こうね」
「お前、そんなにあの店、気に入ったの?」
お店を出て、帰り道へ歩き出す前に、私はふと思いついたまま、おねだりしてみる。
それに尋ねてくるエースへ私はショーウィンドウを指差した。
エースの視線がお目当ての物を見たのを確認して微笑めば、少し間を置いて彼は私の頬を軽くつねる。
私からそっぽ向いた彼の耳は夕焼けに負けないくらい赤かった。