ご退場願います。

「これでよし、と」

 テディベアにするユニーク魔法ってなんだよ。
 先程までそんな恨み言を唱えていたが、今はそのユニ魔使いの同級生にも、それを弾いて俺に当てたヤバイ方のウツボにも感謝している。
 というのも、こうして密かに想いを寄せていた監督生に拾われ、彼女の私室に置かれる事になったからだ。
 見たところあのタヌキはいない。さっき彼女が電話していた時にわかったのだが、どうやら奴はハーツラビュル寮へ預けられているらしい。
 そしてこの魔法が解けるのは明朝。そう、人間に戻った状態で俺は彼女と二人きりになれる!
 いっつもトラッポラとスペードの奴に邪魔されて、話すらできねえもんな。
 一応マジカルペンは抱えさせられていたとはいえ、テディベアになった時はどうなるかと思ったが、俺めっちゃツイてるじゃねーか!
 不便だけど動けないのは怪しまれなくていい。魔法で意思疎通できそうだなと思ったけど、ただのテディベアのフリしてよかった。
 早く朝にならねーかな、そう内心ウキウキしながらベッドに座る彼女を見る。
 俺を部屋に置いて出て行った後、戻ってきた時には今の格好だった。
 どうやら監督生は家に帰ると、すぐに風呂に入るタイプらしい。
 今の彼女は可愛らしい部屋着姿だ。もこもこと肌触りがよさそうな生地、くー抱きしめてえなあ。
 清楚なデザインの部屋着と反して、湯上がりの火照った頬を手であおぐ彼女は何とも色っぽい。
 そして彼女が腰掛けるやたら広いベッドにむくむくと妄想が膨らむ。
 やっぱり監督生もオナニーとかするのか?
 うーん……いやないな。だっていかにもオナニーって何ですか?って感じの顔してるし。地味だし大人しいし見るからに処女だよなあ。
 でもどうせならエロいところ見てみたい。オナニーしてくれねえかな、ここからだったら特等席だろうし。なんて淡い期待をしていたなら、いきなり部屋の扉が開いた。

「よっ」
「あ、エース! いらっしゃい!」

 訳がわからなかった。彼女の嬉しそうな姿を見る限り、予想外の来訪ではないのは明らかで。
 いやおかしいだろ。いくら親友とは言え、こんな時間に男が来るなんて。
 そう思っている間に、ちゅっちゅっとリップ音が聞こえてきた。その音は奴と彼女の間で起こっていた。それも彼女が仕掛けたのがきっかけで。
 怒濤の展開に脳みそが追いつかない。え、まじでどういうこと?

「……なあ、。あのぬいぐるみ、何?」
「さっき帰り道に拾ったの。実はその、好きなんだよね、ぬいぐるみとか」
「ふーん……」

 俺の存在に気付いたらしいエースの問いかけにドキッとさせられたが、奴は一瞥しただけでそれ以上は俺には触れなかった。

「ん、んっ♡ エース……♡」

 そう、俺には触れなかった。でも彼女には触れていた。衝撃に監督生が実はかわいい物好きという情報が頭に上手く入ってくれない。というか入ったところでたぶん無駄なんだろう。
 奴の体が邪魔になって見えないが、ベッドへと移動した二人がむつみ合っているのは彼女の甘い声で明らかだった。
 エースが屈むのと同じくして、ぴちゃぴちゃと水音が流れてくる。
 それと途切れ途切れの嬌声が二人が深い口付けを交わしているのだと思い知らせてきて。
 ぢゅる、と吸い込むような音に彼女がいやらしく鳴く。よく通るその声は授業中、教科書を読み上げる時とはまるで違う。
 清純さなんて欠片もない、男を知ってる、雄に媚びる女の声だった。
 彼女の足の間に奴が割り入っているのだろう。部屋着のズボンと下着が引っかかった足首だけを視界に入れようとする。
 剥き出しになった男の尻も、それが揺れているのも見たくない。ぐちゅぐちゅと粘着質な音が耳に触る。その意味を理解したくない。

、ナカ、出すから……!」
「うんっ♡ ぜんぶだして♡ えーす♡ おなかいっぱいにして♡」

 何度目か分からない「好き」を彼女が口にする。
 奴の背中が震えて、二人分の荒い呼吸が場を満たしていた。
 奴が体を離して彼女の姿が目に入ったが、顔以外はシーツに覆われて素肌は見えない。
 絶望と屈辱と惨めさで心はぐちゃぐちゃだった。
 つかつかと奴が俺の元へ近づいてくる。

「お前さ、隣のクラスのジョンだろ」

 何故わかったのか。今の俺は喋れないが、見透かしたように奴は「フロイド先輩が探してたんだよね」と返す。そういえば奴はウツボと同じ部活だった。
 表情を抜け落としたかのような奴の顔からは普段の快活さは感じられない。乱暴に俺を握り込むと、奴は窓の方へ向かう。
 痛覚はない。でも奴が何をしようとしているのかわかってしまい、恐怖に震える。
 布と綿でできた体ではそれは気のせいでしかないのだけれど。
 奴の視線が一瞬ベッドへと流れる。俺に思い知らせる為に。

「……そういうことだから」

 それだけ口にして、奴は開いた窓から俺を放り投げた。

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