恋と心臓はいきなり駆け出す

 二日酔いによる頭痛で目を覚ましたら、五年近く片思いしてる人とベッドで寝ていた。
 というと、大事件が勃発してそうなものだが、お互い昨日の着ていた服装のままだったし、よくフィクションで見るような体の痛みとかも全くない。昨晩の記憶は残っていないものの、間違いが起こっていないことに安心して、少しだけ残念に思ってしまっている自分がいた。
 NRCを卒業しても私とエースの親交は続いていて、昨夜、私は彼の家に遊びに来ていた。仮にもいい年した女が一人暮らしの男の部屋に上がり込むのは我ながらどうかと思う。でも、もう何度もお互いの家で泊まっているが、私の恋は一向に進展を見せない。
 悲しいかな、彼にとって私は性別を超えた友人でしかないのだ。だったら変に身構えてはエースからしても迷惑だろう。
 ただ幸い、卒業後もお互い恋人を持ったことはない。私は先述の通り、絶賛エースに片思い中だから、そして彼は学生時代のまま、さして恋愛に興味がないからなんだろう。
 エースのベッドは成人男性一人で寝るにはちょうどいいけども、大人二人で寝るには狭くて、自然と密着してしまう。ドキドキと自分の心臓の音がひどくうるさい。これではエースが目覚めてしまうのではないかと不安に思ったが、彼は今もすうすうと健やかな寝息を立てるばかり。
 おそらく前回、雑魚寝した時に翌朝お互い体が痛くてしょうがなかったから、わざわざベッドに運んでくれたのだろう。
 こうして彼と同じベッドに寝るのは実は初めてじゃない。私がまだ男の子としてNRCに通っていた時、ゲストルームの掃除が追いついておらず、エースには同性だと思われていた為、泊まりに来た彼と幾度と同じベッドで寝ていた。
 ただ私が女だと知ってからはすっかり片付いていた事もあり、彼はゲストルームで寝るようになったのだ。まあ頻繁に泊まりに来ることは止めなかったんだけども。
 彼と同じお布団に潜る事に私はずっとドキドキしてた。最初の頃は隠しているとは言えども異性と一緒に寝る事に対して、エースへの恋を自覚してからは好きな人との近すぎる距離に。
 どちらかと言えば私は寝付きが良い方なんだけれど、この時ばかりはあまり眠れなかった。

「まだ五時か……」

 ちゅんちゅん、と既にカーテン向こうで雀が囀っている。だが視界端の壁掛け時計が示すのは早朝である。今日は私もエースも仕事は休みだ。仕事だとしてもこんなに早起きする必要はない。どんなに張り切った朝ご飯を作るにしたって、さすがにこの時間帯から始めては彼が起きる頃にはすっかり冷めてしまっていることだろう。
 ならばもう一眠りすればいいのだろうけども……この状況で眠れるほど私の神経は図太くなかった。単純に狭いからか、はたまた人肌恋しいのか。エースは私の体をぎゅっと抱き寄せている。
 人の気も知らないで。ムキになった私はぺたりとエースにくっついて、彼の胸に頭を預けてみる。どくんどくん、エースの心音がハッキリ聞こえて——

「なに、。お前寒いの?」

 あれ?と思った瞬間、頭の上から声を掛けられる。それと同時に更に抱きしめてくる彼の腕。より強く触れ合う私達の体にエースの早い心臓がまたペースを上げていく。
 おはようより先に与えられた、からかう時のような声色に眠気はない。どうやらエースは狸寝していたらしい。私と同じくらい早鳴っていた心臓にそう思わざるをえない。
 こんな距離に彼がいて寒いわけがない。むしろ唐突に発覚した可能性に体温が上がって熱いぐらいだ。
 何か言わなきゃ、ぐるぐる混乱している頭のまま、そう考えて。

「寒くないよ。ただ眠くて、その」
「うん」
「起きたら、告白してもいい……?」
「ヤダ」

 オレから言いたいからダメ、と彼のワガママに続けて、ずっと知りたかった彼の気持ちを教えられる。
 眠気は何処か行ってしまった。まだ朝早いのに、こんな心臓じゃどうしたってもう一眠りなんてできやしない。でもエースが唇を近づけてくるから、私は瞼を閉じるほかなかった。

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