かわいくてしょうがない
男装にすっかり慣れたとはいえ、たまには女の子らしい格好もしたくなる。私の場合は彼氏ができたのもあって余計にその欲は膨らんでしまったのだろう。
休日になると彼とは街へデートに繰り出しているが、そこでも私は男の子の姿のままだ。
あいにく私が女であるということは彼氏であるエース含む一部の人達にしか知られていないため、うっかり外で他のNRC生に出くわした時ややこしいことになるから。
あと私は単純に女性物の衣類を持っていないのだ。男装しているという状況から着る機会も必要も、ついでに当時はまだ生活費にもゆとりが無かったし。
そんなわけで私の普段着は全部エースとデュースからのお下がりである、その上、付き合い始めてからは専らエースのしか着ていない。
意外にやきもちやきな彼氏がデュースの服を着るのを嫌がるものだから。私そういうの、面倒に感じるタイプだと思ってたんだけどなあ……。
歳の離れたお兄さんが居るからなのか、エースは甘え慣れてるというか……おねだり上手なのだ。あとは惚れた弱みもあるんだろう。
まあ彼氏の服というのもそれはそれで悪くないし、寝間着代わりに最近譲ってもらったYシャツ着ていたのを見た彼氏様自体も「彼シャツ……」とか呟いて興奮してたみたいなのでアリっちゃアリ。
でもそれはそうとして、どうせならちゃんと女の子をしている私も見てほしいという気持ちもあって。
いくらサムさんの店だったら何でも揃うとはいえ、女性物を購入しているところを誰かに見られては困る。
女装趣味ってことで誤魔化せるかもしれないが、付けずに済みそうな火種はできる限り避けておきたい。
なのでバイトで臨時ボーナスをゲットしたのを良いことに、私は通販サイトで女の子をする為の品を一式買った。洋服にメイクに、あとついでにロングヘアーのウィッグ。
男装し始めた時にバッサリ切り落としたが、元の世界にいた時の髪型によく似ていたし、セールになってたのでつい。こちらの世界にきてからお得という言葉にすっかり弱くなってしまった。
もしエースが嫌じゃなかったら、女装というのもおかしいけど女の子の姿でデートしたい。エースの彼女として堂々と歩きたいのだ。
ちなみに商品は注文確定ボタンを押して数分後にオンボロ寮の玄関に届いていた。魔法の世界すごい、その分送料がゼロになるまでの金額めちゃくちゃ高かったけどね。
お披露目するの、本当はもっと後の予定だったけど……ちょうどいいや。明日は遊園地でデートする約束だけども、今晩エースはオンボロ寮に泊まりに来る。その時に伺うとしよう。
「……どうしたの、その格好」
「エースには女の子の私、見てほしいなあと思って」
エースがお風呂に入ってる間にバッチリ準備して、その状態で出迎えたなら彼は目をまん丸にしていた。ドッキリ大成功〜! 例の看板がないのが惜しまれる。
「……かわいいじゃん」
「えっ」
意外な反応に逆に驚いてしまって思わず声をあげれば、エースはムッとした顔を見せた。
「なに、その反応」
「いやエースってあんまりそういうこと言うタイプだと思ってなかったから」
「自分の為に頑張った彼女すら褒められない男と思われてるとか、かーなり心外なんですけど〜」
拗ねた様子のままエースはぎゅっと抱きついてくる。
その上でちょっとした嫌がらせのつもりなのか、頭に顎を乗せられた。ちょっ、地味に痛い! 意地悪に背の高さを生かすんじゃない!
胸を叩いて不満を訴えれば、ひとまず頭は退かしてもらえたが離そうとする気配はない。
なのでもうこの体勢のまま話を進めることにした。
「エース、私、明日はこの姿でデートしたいなあ」
「なんで」
「その方がデートっぽいから!」
「外出するなら鏡舎通らなきゃダメだろ、誰に会うかもわかんねーのにその格好じゃ行くに行けないじゃん」
「モストロのバイトついでに利用して溜めたポイントカードで、アズール先輩に十五分どんな格好でも、いつもの制服姿に認識される薬もらったから大丈夫!」
ただ薬をもらった時「趣味は人それぞれですから用途について深く追求はしませんが……」と目を逸らしながらの台詞からして、おそらく露出癖持ちだとアズール先輩に勘違いされている。
だが先輩は従業員のプライベートを無意味に詮索するタイプじゃないから、まあ……たぶん問題無いだろう!
——といった感じでちゃんと彼の挙げた問題点を解決させたというのにエースは納得いかないらしい。
ただし私も一歩も引く気はなかった。このまま平行線かと思いきや、エースが先手を打つ。
「どうしてもその格好するなら、遊園地からおうちデートに変更な」
「横暴だ」
「……それか罰ゲームじゃない限りNRC生が行かないようなバリバリのデートスポット」
そうきちゃったか。うーん、大概エースも私に弱いよなあ……前に雑誌で見た時はこんな所ぜってーごめんだわと言っていたのに。まさかここまで譲歩してくれるとは。
ウィッグを外され、床へと雑に投げられる。
どうやらウィッグはエースのお眼鏡に叶わなかったらしい。値段と返品不可の点で怪しむべきだったんだけどね。
いくら写真詐欺の品だったとはいえ、もうちょっと優しく扱ってほしい。
もしかしたら何か他に使用用途が見つかるかもしれないし……化学繊維っぽいから埃取りのモップとか。
私を片腕に収めたまま、反対の手で髪を撫でてくるエースを抱きしめ返す。
「そんなに私のかわいい格好、他の人に見せたくない?」
「……わかってるなら聞かないでよ。それでどーすんの」
「バリバリのデートスポットでイチャイチャする」
「そこまで言ってない」
「したくない?」
「……するけど」
エースの尖った唇に私から口をくっつける。
それに少しだけ表情が和らいだものの、彼の不機嫌を完全に取り除くにはまだまだかかりそうだ。
口紅がついちゃうことを心の中で謝りながらキスを繰り返す。しばらくするとエースの方から唇を寄せるようになっていて。
せっかくここまで持ち直したのだ。だからこそ、そんな彼をかわいいなあと思ってしまったのは絶対に内緒。